サ上とロ吉7thアルバム『Shuttle Loop』全曲レビューが公開!

サイプレス上野とロベルト吉野22.04.27

好評発売中のサイプレス上野とロベルト吉野ニューAL『Shuttle Loop』の全曲レビューが到着しました!

M1:Shuttle Loop

ニューアルバムのトップを飾るのはヘヴィメタル×ドラムンベースというクレイジーなサウンドが炸裂する“Shuttle Loop”。これまでのサ上とロ吉作品と同様に、そのタイトルは彼らの出身地である横浜ドリームハイツに隣接していた遊園地「横浜ドリームランド」にあったアトラクションからの引用。

タイトルをジェットコースターに擬えたように、高速で疾走するビートに対して、サ上はツバを飛ばしまくるような熱のほとばしるようなラップ、ロ吉はタイトなスクラッチを被せ、「サ上とロ吉ここにあり!」といった、パワフルな楽曲でリスナーを圧倒していく。

これからのライブでも突破口になりそうな一曲は、サ上とロ吉作品では“ヒップホップ体操第三”などを手掛けるトラックメイカーのYasterizeが制作。

 

M2:おもしろおかしく

“ Shuttle Loop”での興奮を一旦冷ますような、温かみのあるベースと小気味よいウワモノが心地よく響く、ミッドテンポな“おもしろおかしく”。

しかしそのキャッチーなタイトルとは裏腹に、「お前とか誰かの意思とは別に/進んで行くんだよ/これはレッスン1」と、サビを中心にして、運命論や「諸行無常」とも言えるような言葉が紡がれる。しかしそこで諦めたりニヒリズムに陥るのではなく、「いきり立ってなんなよ意地に/一緒に立つべスタートの位置に」と言葉は続き、「どうにもならないならことは当然あるけれど、共に面白おかしく過ごすことは出来る」というような、全編を通して「ままならない人生をどう『おもしろおかしく』楽しむか」というような、サ上流の人生論とも言える構成が印象的だ。

ビートは韻踏合組合“一網打尽”などを手掛けるNAOtheLAIZA。

M3:RAW LIFE  feat. 鎮座DOPENESS

80年8月生まれのサ上、81年3月生まれの鎮座DOPENESSという、同学年であり「松坂世代」の二人がタッグを組んだ“RAW LIFE”。

リリックからも察することが出来るように、サ上はユニット:ドリームラップスのメンバー「上千代the闇スナイパー」として、鎮座DOPENESSはケツメイシのアルバム「ケツメポリス」(2000年)収録の“CLUBへ~熱帯夜 mix~”に、熱帯夜CREWのメンバー「SHU」として客演していた時代からの繋がりがあることが伺える。

また恐らくこの二人が楽曲で揃うのは、ZEN LA ROCK×鎮座DOPENESS×サイプレス上野の“Tropical Triangle”(2015年リリース)以来であり、鎮座DOPENESSがZEN LA ROCK、G.RINAと共に結成しているユニット:FNCYへの連綿も感じさせられ(奇しくも二組とも所属レーベルはキングレコード内の「EVIL LINE RECORDS」)、ヒップホップシーンでのお互いのキャリアの重ね方の妙味も味わえる。

その二人のラップを取りまとめるビートは、星野源バンドへの参加やフジロックへのソロ出演、そしてドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌であるSTUTS & 松たか子 with 3exes“Presence”などを手掛けるトラックメイカー/MPCプレイヤーのSTUTSのプロデュース。

M4:?????

無題とも言えるこの曲は、ドラミングという、ロ吉によるターンテーブリズムでのリアルタイムのビート構築に併せて、サ上がラップを乗せていく、1MC&1DJの真骨頂、ヒップホップならではの音楽制作術で聴かせる一曲……なのだが、「友達全然いないぜ/普段の生活プライベート本当に性格暗いぜ」と、どうにも格好つかないリリックが染み出してくる。

そしてこの楽曲自体、彼らのデビュー作「ヨコハマジョーカーE.P」の“サイプレス上野とロベルト吉野”のリコンストラクションであり、良い意味でも悪い意味でも「ブレない」二人の境地を感じさせる。後半に登場し「サイプレス吉野とロベルト上野」と呼び間違えるのは、漢 a.k.a. GAMI。

 

M5:MONEY feat. 漢 a.k.a. GAMI

その漢 a.k.a. GAMIを客演に迎えた“MONEY”。00年代の日本語ラップをリリースの面で大きく支えた、名A&Rである佐藤将(故人)が取り持ったサ上と漢の縁は、「フリースタイルダンジョン」などの共演を経て、今作にたどり着いた。

ソロやユニット:MSCでの活動を通して、リアルなストリートライフをテーマに、日本語ラップに新たな基軸と基準を生み出した漢 a.k.a. GAMI。リアルな私生活をどこまでも丸出しにし、それをエンターテイメントに昇華させることで、日本語ラップの風通しを変えたサ上とロ吉。00年代中盤に注目を集めたこの二組は、社会経済的にも、音楽シーン的にも「ポストバブル」世代であり、焼け跡のような土壌を新たに切り拓かざるを得なかった。その二組がこの曲では「マネーという数値的な評価」を求めつつも、同時にそれでは還元できない「自由や表現への希求」を歌に落とし込み、ヴェテランの世代になっても彼らを創作に突き動かすエネルギーの根源がどこにあるのかを感じさせられる。

トラックはt-Ace、「ヒプノシスマイク」なども手掛けるベテラントラックメイカー:CHIVA from BUZZER BEATS for D.O.C.

M6:STANCE

「ヒップホップへの怨念」が一つのテーマになったこのアルバムの中盤を飾るのは、サ上とロ吉の立脚点を明らかにする“STANCE”。

ヒップホップとの出会いから、ヒップホップに突き動かされる情念、そしてプレイヤー側に立ったからこそ見えるヒップホップへの撞着を、「あの日から誓ったB-BOY STANCE/もしかして違ったB-BOY STANCE/自分自身問いかける365/それがB-BOY STANCE」と、様々なキャリアを経た上でも、「根本は未だに一介の悩めるBボーイである」というピュアな視点から形にする。「ヒップホップ」ではなく「ラップミュージック」、「己を救うための哲学」から「誰もが共有できるポップス」になったヒップホップ(それが決して悪いことではない)という、カルチャーを取り巻く環境の変化に対する、ヒップホップへの愛と呪いが詰まったサ上とロ吉からの返歌といえるだろう。

「寝る前に唱える/俺はHIPHOP」という言葉は、ヒップホップシーンの「ティーチャー」であるKRS-ONEの著書「THE SCIENCE OF RAP」の一章「Say to yourself,“I am Hip-Hop”」からの引用と思われる。

M7:万華鏡 feat. TARO SOUL、KEN THE 390

ハスラーやギャングなど「不良性感度の高さ」や、生育環境の過酷さやバックグラウンドの強烈さが、アーティストしての評価の基準の一つとなった00年代中盤。

その中で中流家庭に育ち、教育の機会もあり、イリーガルビジネスにも手を染めずという存在は、社会的にはマジョリティであるにも関わらず、ヒップホップシーン的には軽んじられる場合も少なくなかった。しかし、そういったパッケージやカテゴライズといった「外見」でなく、「ONE」などのイベントやそれぞれのソロ作、MCバトルなどの「中身」と「実力」を通して存在感をしっかりと高め、未だに現役を貫くサ上とロ吉、TARO SOUL 、KEN THE 390。

その20年来の盟友たちがタッグを組んだのが“万華鏡”。それぞれが打ち出すライミングの硬さとフロウの構成力という「ラップ力の高さ」からも分かる通り、紆余曲折を経て、20年以上のキャリアを誇る三人が現在の状況をレペゼンしつつ、「いかにラップという表現方法が魅力的で止められないか」を改めて提示する、サ上×タロケンによる「ラップ狂の詩」である。

トラックはサ上とロ吉に加えて、サ上とロ吉作品のマニピュレートも手掛けるDJ K10 a.k.a MAD SAIZERIyAの制作。

M8:COCOLO

本作のトラックを手掛けたのは、ソロワークの他にも、森高千里やKEIJUとのコラボなどを通して、音楽シーンに名を轟かすtofubeats。

その彼とサ上とロ吉とのリリース上の接点は、tofubeatsが“Bay Dream~フロム課外授業~”のいわゆる「ご勝手REMIX」をYouTubeにアップし、それがサ上とロ吉の目に留まり、12インチ盤としてリカットされた「ヨコハマジョーカーE.P.」に“Bay Dream~フロム課外授業~ (TOFUBEATS REMIX)”として収録された2009年にまで遡る。

当時「WIRE」などにも出演し、一部からは俊英として注目されていたが、tofubeastの一気に名前を高めたクラシック“水星 feat.オノマトペ大臣”(2012年)のリリース以前であり、その意味でも長い時を経た待望のタッグ作といえるこの曲。センチメンタルなメロディと展開の強いビートというtofubeats印のトラックに併せて、オートチューンで未来への希望を歌い上げるサ上とのコラボは、非常に興味深い仕上がりとなっている。

“COCOLO”というタイトルは、tofubeatsの地元である関西を代表するファッションブランドであり、サ上とも縁の深い「COCOLO BLAND」も想起させる。

 

M9:少年イン・ザ・DRM

NORIKIYOやBRON-Kなどを擁する相模原のヒップホップクルー:SD Junksta。そのメンバーとしてSITE名義でグラフィティライターとして活動する他、映像ディレクターなど多彩な活躍を見せる東京ブロンクス。サ上とも共著として「LEGENDオブ日本語ラップ伝説」を刊行している彼が、雑誌「SPA!」で連載中のマンガ「少年イン・ザ・フッド」からの引用と思われるタイトルの“少年イン・ザ・DRM”。

「DRM」とは彼が生まれ育った「横浜ドリームハイツ」のことであり、そこでのクレイジーとも言えるエピソードはサ上の自伝「ジャポニカヒップホップ練習帳」でも読むことが出来るが、この曲では改めてその「DRM」での経験を曲に落とし込んでいる。その内容は「遊園地への不法侵入」にとどまらず「勝手に観覧車を動かす」などの、曲の一節を切り取っても完全アウトな内容が続くが、「そこでいかにサ上とロ吉が育まれたか」「彼らの人生の礎がどこにあるのか」をドラマティックに切り取ることで、彼らの青春賛歌として響く……が、ドリームランドの元管理者にとってはたまったものではないのも事実(笑)。トラックはGADORO“ハジマリ”などを手掛けるikipedia。

M10:NICE DREAM

エモーショナルなピアノの旋律に赤ちゃんの喃語が乗り、ヒップホップの王道ブレイクビーツがその下支えをする、ヒップホップらしいアプローチが印象的な“NICE DREAM”。ある意味では「トリックスター」「エンターテイナー」としてヒップホップシーンの内外で活躍するために、様々な誤解も受けがちなサ上だが、「主役の気分がただのピエロ/自分に言うそのメイク似合ってるよ」という言葉は、彼自身にも向かうだろうし、立場や立ち位置によって様々な仮面を使い分けなければいけない我々リスナーにも刺さってくる。そういった言葉に代表されるように、この曲は過ぎ去っていく日々日常という「自分の人生」を、改めて見つめ直し、愛おしむような、サ上とロ吉流の人生讃歌としてリスナーに届くことだろう。

今年の元旦にアップされた、プロスケーターの中田海斗も出演したMVは、「DRM CREW」の映像部隊「HOMEVIDEO BOYS」が撮影を手掛け、サ上自身が監督している。

トラックはサイプレス上野とマイク大将によるユニット:七夕野郎のバックDJなども手掛けるDJ MISTA SHAR

 

M11:STILL 184045

横浜という文字を日本のヒップホップ地図に大書したOZROSAURUSが放った、横浜の市外局番をなぞった「045」というキーワード。

そのオジロやDS455に代表される、横浜のカラーとして全国的に認知されていた「ウェッサイスタイル」とは異なったアプローチで、アンダーグラウンドで活動していたSterussやサ上とロ吉、マイク大将らが所属していたクルー:ZZ Production。

彼らは「045」に対して、リスペクトと反骨心を込めて「184045」、「非通知横浜スタイル」を旗印に活動を展開していたが、その本流の「045」と別の流れであった「184045」は、2012年にサ上とロ吉「ヨコハマシカ feat. OZROSAURUS」として結合し、新たな横浜アンセムを生むことになった。

その上で、今回のアルバムのトリを飾る“STILL 184045”は、改めてサ上とロ吉の根本にはZZ Productionがあり、「184045」が自分たちの原点であると宣言する。同時にそれは、クルーとしてはほぼ活動休止状態となってるZZの面々へエールを感じるのは考えすぎだろうか。サ上がプロデュースしたトラックは、日本語ラップクラシックである、Naked Arts“夢”と同じネタづかいであり、その意味でも「夢中であることの重要性」が一つの骨子になっている本作を締めるのに相応しいトラックとも言える。

(TEXT:高木“JET”晋一郎)

 

【商品概要】
7 th アルバム「Shuttle Loop」
アーティスト:サイプレス上野とロベルト吉野
発売日:2022年3月16日(水)
定価:¥3,300(税込)
品番: KICS-4050
形態:CD
(収録内容)
1. Shuttle Loop
Lyric:サイプレス上野 Music:Yasterize
2. おもしろおかしく
Lyric:サイプレス上野 Music:NAOtheLAIZA
3. RAW LIFE feat. 鎮座DOPENESS
Lyric:サイプレス上野、鎮座DOPENESS Music:STUTS
4. ?????
5. MONEY feat. 漢 a.k.a. GAMI
Lyric:サイプレス上野、漢 a.k.a. GAMI 
Music:CHIVA from BUZZER BEATS for D.O.C.
6. STANCE
Lyric:サイプレス上野 Music:Yasterize
7. 万華鏡 feat. TARO SOUL、KEN THE 390
Produced by サイプレス上野
Lyric:サイプレス上野、TARO SOUL、KEN THE 390
Music:サイプレス上野、ロベルト吉野、DJ K10 a.k.a MAD SAIZERIyA
8. COCOLO
Lyric:サイプレス上野 Music:tofubeats
9. 少年イン・ザ・DRM
Lyric:サイプレス上野 Music:ikipedia
10. NICE DREAM
Lyric:サイプレス上野 Music:DJ MISTA SHAR
11. STILL 184045
Produced by サイプレス上野
Manipulated by DJ K10 a.k.a. MAD SAIZERIyA
Lyric:サイプレス上野 Music:サイプレス上野

ご購入はコチラ
URL:https://saue.lnk.to/7ALMM


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価格:¥8,800(税込)
形態:CD+グッズ
グッズ詳細:カセットプレーヤー(ブラック / USB機能・ステレオ再生)

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URL:https://diskunion.net/clubh/ct/detail/1008415336


【7inchアナログ情報】
タイトル:RAW LIFE feat. 鎮座DOPENESS(Produced by STUTS) / COCOLO(Produced by tofubeats)
アーティスト:サイプレス上野とロベルト吉野
FORMAT:7″
CatNO:JS7S321
BARCODE:4560236388953
価格:¥2,000+税
発売日:2022年6月中旬予定
(収録内容)
SIDE A
1.RAW LIFE feat. 鎮座DOPENESS
SIDE B
1.COCOLO
予約はコチラ
URL:https://www.jetsetrecords.net/i/816006021899/

【好評配信中】

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