サイプレス上野とロベルト吉野 『サ上とロ吉と』オフィシャルインタビュー
結成20周年を迎えたサイプレス上野とロベルト吉野(以下サ上とロ吉)がニューEP「サ上とロ吉と」を2020.7/1にリリース。アイドル、2次元キャラクター、レジェンド、バンド、コメディアン、シンガー……様々なジャンルからの客演を招いた「コラボ盤」として完成した本作は、「HIP HOPミーツallグッド何か」というテーマのもとに、ヒップホップに軸足を置きながらも、その興味と関係性の枝葉を四方八方に伸ばし、「allグッド何か」と出会うことで成長してきた彼らの生き様を表すような1枚だ。
○結成20周年作品として「サ上とロ吉と」がリリースされました。改めておめでとうございます。
サイプレス上野(以下、サ上):ありがとうございます。
ロベルト吉野(以下、ロ吉):うれしいです。
○今回は全曲に客演を迎えた「コラボ盤」として完成しましたね。
サ上:結成から20周年って言うこともあって、やっぱり「お祭り感」が欲しかったんですよね。それに客演自体、自分が他のアーティストの作品に参加させてもらうことは多いんだけど、サ上とロ吉の作品に客演参加してもらうってことは、他のヒップホップ・アーティストに比べると多くなかったーーアルバムのほぼ全曲に客演が入ってたりするのはヒップホップじゃ珍しくないからーーんで、「次はコラボ作で」っていうのは、このEPの制作当初から考えてましたね。それによって俺たちが持てる力と、コラボ相手から貰える力を合致させた作品を作りたかったっていう思惑もありました。
○相手の力も利用するという、アントニオ猪木の「風車の理論」というか。
サ上:そういう感じで名勝負数え歌が出来れば……と思ったけど、「風車の理論」じゃ相手を倒しちゃうじゃん(笑)。だから、がっぷり四つを組んで、良い化学反応を作品に与えたいって感じですね。だからバンドマンも、アイドルも、キャラクターも、大先輩も……って色んな人達の力を借りて、作品作りに取り掛かりたいなって。
○客演にSKY-HI、トラックにgrooveman Spotを迎えたメリゴ feat. SKY-HI (grooveman Spot Remix)は、ヒップホップ・サイドの仕事と言えると思いますが、他の客演はいわゆる「ヒップホップ畑」のアーティストではないですね。
サ上:逆にヒップホップ畑じゃない人たちと今回は一緒に作りたかったんですよね。もちろん、自分たちの立脚点はヒップホップにあるし、シーンには仲間はたくさんいる。だからいままでも俺たちも所属するクルーであるZZ Productionの連中だったり、同世代のTARO SOULや、NONKEYやLeon Fanourakisみたいな横浜界隈のメンツーーその中には横浜代表のOZROSAURUSとの“ヨコハマシカ feat.OZROSAURUS”もあってーーと作品を作ってきて。だけど、そういう動きはこれまでもやってきたことだから、今回はもう一つ別の視点を持って、作品作りがしたかったんですよね。
ロ吉:俺たちのテーマである、「HIP HOPミーツallグッド何か」の頂点を作りたいって気持ちはありましたね。
サ上:間違いない。ヒップホップの外側の「なにか」といっしょに作るキッカケは、「MUSIC EXPRES$」での後藤まりこちゃんとの“ちゅうぶらりん feat. 後藤まりこ”ぐらいから始まってるんだけど、あのコラボで「意外だな」って思われたような展開を、今回は極めてみようと。
○なるほど。ではそのコラボに焦点を絞ってお話を伺うと、“More & More feat. ももいろクローバーZ”ではももいろクローバーZを客演に迎えられました。
サ上:これまでにも“Survival of the Fittest -interlude-”のリリックを書かせて貰ったり、加山雄三さんのリミックスアルバム「加山雄三の新世界」では“
蒼い星くず feat. ももいろクローバーZ×サイプレス上野とロベルト吉野×Dorian”を一緒に作ったり、年越しの「ももいろ歌合戦」にも毎年呼んで貰ったり、いまではEVIL LINE RECORDSのレーベルメイトだったり……そうやって関係性はどんどん深くなっていってて。それで今回フィーチャリングっていう形で作品に参加して貰ったんだけど……よく考えたら日本のアイドルのトップランカーと俺たちだよ?
○お前らはぐれ軍団だよ?!
サ上:おい!ライターが言い過ぎだろ!(笑)。でもそんな俺たちとも、ももクロはスゴく仲良くしてくれて。この前はももクロのラジオのゲストに出たら、スタジオに入るなり(百田)夏菜子はタックルしてきて。
○「Dr.スランプアラレちゃん」だね、まるで(笑)。
サ上:ゲストなのに、スタジオの中でふっとばされて(笑)。
ロ吉:親しみやすいっすね。
サ上:そういう関係性もあったから、スゴくフラットに曲が作れたと思うし、気負うよりも、自然にフィーチャリングに迎えられたと思う。
○ももクロの歌う「誰ひとり残さずパーティを続けよう」というフレーズは、サ上とロ吉が常に言っているメッセージですね。
サ上:そこは特に歌って欲しかった部分ですね。「明るくて元気」っていうエネルギーを込めて貰ったと思うし、歌ってもらったことによって、曲のメッセージがよりポップに、深くなったと思う。
ロ吉:ももクロの曲を使ったスクラッチは、曲の選択を俺たちの幼馴染であるDRMMANって奴に頼んだんですよね。DRMMANはももクロのオタクなんで、その話をお願いしたら嬉しすぎて震えてましたね(笑)。
サ上:「この曲もいいな~、いや……あの曲も」とか全然決まんないし、歌詞カードを見ながら思い出を語りだしたり、振り付けの解説とか始めたり。「もうそういうのいいから、早く選んで貰っていいすか?」って(笑)。で、結果“走れ”っていう代表曲になるという(笑)。
○ ファン目線のマニアックな選曲になるかと思いきや(笑)。
サ上:でも、そういう風に信用できる仲間にアイディアを貰ったり、一緒に手伝ってもらうっていうのは、いままでもずっとやってきたことだし、そのブレなさが俺たちなのかなって。
○“Let’s Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD”には、多国籍なサウンドを奏でるインストゥルメンタル・バンド:YOUR SONG IS GOODが参加しました。
サ上:YOUR SONG IS GOODっていうバンドは、俺たちを救ってくれたバンドなんですよ。ユアソンが所属するレーベル:カクバリズムの角張(渉)くんと俺が昔同じ会社でバイトしてて、そこで角張くんとは知り合ったんだけど、彼がバンド界隈の世界に俺たちをぶっこんでくれて。その中で知り合ったのがユアソンだったんですよね。それがこの曲のアウトロでも言ってる通り16年前。その当時、俺たちはヒップホップ・シーンに対してスゴくフラストレーションが溜まってたし、失望してたんですよね。
○それは何故?
サ上:ポップシーンではDJなのにCDJのプレイボタンを押して終わりみたいなDJがいたり、アンダーグラウンドは理不尽なムラ社会になってたり、そのどっちもダサいし、俺たちは居場所ねえな、って。
ロ吉:めちゃくちゃキレてましたよね。
サ上:そんな時にユアソンと出会って、特にバンマスのサイトウ “JxJx” ジュンくんにはめちゃくちゃ良くしてもらって。その中で色んなバンドだったり、同じようにヒップホップシーンの外側に足が向いてたECDさんに直接出会ったり。そこで「こういう音楽シーンがあるんだ。俺たちもこれでいいんだ」って思ったんですよね。それで俺たちはスタンスを変えずにいままでやってこれたって部分は確実にあると思う。それからもジュンくんにはトラックを提供や客演にも参加して貰ったんだけど、今回ついにユアソン本体を客演に迎えられたのがこの曲でしたね。
○“日本全国乾杯ラップ feat. 奇妙礼太郎”は非常にご陽気な酒ソングになりましたね。
サ上:しかもこの曲はプロデュースがマキタスポーツさんなんですよ。
○なぜサ上とロ吉と奇妙礼太郎が組んだら、プロデューサーがマキタスポーツなのか……数式がおかしい(笑)。
サ上:「東京ポッド許可局」の訳分かんないバージョンみたいな感じで(笑)。明るい酒の曲なんで、男のヴォーカルで酒を歌える人が欲しいなと思った時に、それをマキタさんに相談したら「俺が歌ったらシュッとしないからな……」って(笑)。それで「奇妙がいいんじゃない?」ってアイディアが降りてきて。俺たちも奇妙さんとはライヴで一緒になったこともあったんで、連絡したら「やりますよ!」って二つ返事で乗ってくれて。
○奇妙さんもお酒好きですよね。
サ上:そうそう。マキタさんもスタジオにくるなり、「お前ら飲んでるか!」って(笑)。それで俺は当然のごとく飲んでたんで「ハイ!飲んでます!」って(笑)。
○客演を迎える側のホストが飲んでどうする(笑)。
サ上:だけど奇妙さんは飲んでなくて、逆に「なんで飲んでねえんだよ!」って言われるっていう(笑)。で、飲んだ風味の話をして一回録り直しするっていう、昭和のレコーディングでしたね。
ロ吉:完成するまでの時間はちょっとかかりましたね。
サ上:マキタさんのプロデュースと、奇妙さんのコダワリもあったんで、ブラッシュアップに時間がかかったんですけど、その分二人のプロフェッショナリズムも感じたし、素晴らしい曲になりましたね。俺のリリックも居酒屋で掛かってたら楽しいぐらいのお気楽な感じで。いまのラップってエモと死ばっかりだから。
○それも極端だろ(笑)。
サ上:そういう時代に、一人ぐらい酒飲んでご陽気になるって曲を歌ってもいいだろうと。ほんと、死ぬとか歌わないほうがいいよ。暗い歌の方が刺さるっていう気持ちも分かるけど、人はそんなに簡単に死なないから。吉野は真冬の海に落ちても死ななかったから(笑)。
ロ吉:血圧40まで落ちても大丈夫だったんで。
サ上:自販で買った「あったか~い」お茶ぶっかけたら助かったんだから(笑)。
○なんの自慢だ!(笑)
サ上:今は乾杯が難しいけど、盛大に乾杯ができるようになった時に、みんなで歌いたいっすね。
○“Uptown Anthem feat. 碧棺左馬刻(from「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」)”は、二次元と三次元がクロスする作品になりましたね。
サ上:かなりドープな曲になりましたね。俺たちの中でもドープな方向に寄せて、キャッチー要素は全然無い。
○HyperJuiceのハラさんが手掛けたサウンド的にもハードですね。
サ上:この曲のキッカケはハラくんだといっても良いかもしれない。もともとハラくんとは仲は良かったんですけど、ハラくんはハラくんで左馬刻の声優をやってる浅沼晋太郎さんと仲が良くて。そして俺はMAD TRIGGER CREW(ヨコハマ・ディビジョン)で、碧棺左馬刻がラップする“G anthem of Y-CITY”の歌詞を書いたから浅沼さんとも当然面識はあって。そういう風に、全部が繋がってこの曲が出来上がったんですよね。だから、もしかしたら「ヒプマイに乗っかった」って言うやつもいるかも知れないけど、そうじゃなくて、人と人との繋がりで、この曲は成り立っていったんですよね。
○リリックの内容もハードですね。
サ上:左馬刻というキャラクターは、ヨコハマのヤクザ/ギャングスタですよね。俺も横浜のラッパーとして生きる以上、横浜っていう街の裏側も知らざるを得なかったし、左馬刻というキャラクターと作るからには、そういう横浜/ヨコハマっていう街の表と裏を入れた作品にしようって。「俺たちもそういうストリートにいたんだよ」っていう歴史も含めて。
○だから、現実の「横浜」と物語世界の「ヨコハマ」が交差する場所にこの曲はあります。
サ上:“G anthem of Y-CITY”を作った時も、その二つの世界線を完全に分けるんじゃなくて、曖昧な形にしたかったんですよね。「街に生きてる」っていうことでは、リアルもキャラクターも変わらないと思うし、その2つの世界を同時に感じるような曲にしたくて。
○“YOKOHAMA SKYWALKER feat. SAMI-T from Mighty Crown、AISHA”には横浜からSAMI-TさんとAISHAさんの二人を迎えられました。
サ上:20周年という事実を踏まえて、改めて自分たちのルーツである「横浜」っていう場所を形にしたいと思ったんですよね。その時に、横浜の王者であるMighty Crownは避けて通れない存在だなって。
○Mighty Crownは横浜スタジアムで行われた「横浜レゲエ祭」の主催をはじめ、「横浜」の存在感をレゲエシーンのみならず音楽シーンのなかでも高める存在ですね。
サ上:しかも、横浜はもともとレゲエシーンとヒップホップシーンが密接な街でもあるから、俺たちも昔からレゲエの現場でも遊ばせて貰ってきたし、自分たちの曲も、ヒップホップシーンだけじゃなくて、レゲエシーンからも認めて貰いたいっていう気持ちはずっとあって。認めてもらいたいっていうか、そのシーンでも楽しんで貰えないとつまらないって感じかな。それで今回、色んな人と一緒に作るなら、Mighty CrownのSAMI-Tさんと組ませて貰って、しっかり内容の濃い作品を作りたいなって。そこで通行手形が欲しかったっていう気持ちもある。それはSAMI-Tさんの威光を借りてシーンへの通行手形を貰うって意味じゃなくて、SAMI-Tさんと作るからには、俺たちも言い訳や手抜きは全く出来ないし、そこで次のステップに登るための通行手形が欲しかったっていう感じですね。だから、正直この制作は本当に何度も何度もSAMI-Tさんからダメ出しを食らって、何度も作り直したんだけど、だからこそ本当に自信のある作品になったし、ステップアップ出来たなって。
○「夢は叶う」といったニュアンスのメッセージを明確に言っている部分にも驚きました。
サ上:やっぱり俺たちは捻くれてるから、そういうメッセージに対して「キャラじゃねえしな……」って避けてる部分もあったんですよ。でも、SAMI-Tさんに「ちゃんと横浜を背負ってる覚悟はあるのか!」っていう事を言われて火がついたっていうか。だから、何度もリリックを書き直すたびにシンプルな気持ちになっていきましたね。確かに、20周年を迎えられたんなら、そこで照れ笑いしなくてもいいだろうって。だから、俺たちの闘志に火を着けてくれた曲だと思うし、SAMI-Tさんに背中を押して貰った曲になりましたね。正直、完成した瞬間は泣きました(笑)。
○社会情勢的にリリースライヴなどは難しいですが、この後の動きについては?
サ上:改めて、ここから自分たちのアルバムをコツコツ作っていくっていう感じですね。ライヴが出来ない分、制作に向かう時間も増えると思うし、自分たちのヤサ(住居兼たまり場兼スタジオ)もメチャクチャ片付いてるんで、いい作品ができるんじゃないかと。
ロ吉:俺もトラックを作り始めてるんで、そういう部分でも新しい動きが出来ればと。
サ上:やっぱり、このEPで「ヒーローになる」ってメッセージを言ったからには、その気持ちをちゃんと持ったまま作品作りに向かえば、また違う景色とか姿が見せられると思うんですよね。だから楽しみにして欲しいですね。
■INFORMATION
▼リリース情報
サイプレス上野とロベルト吉野
『サ上とロ吉と』(CD)
2020年7月1日(水)リリース
価格:2,091円(税別)
KICS-3899
- INTRO
- More & More feat. ももいろクローバーZ
- Let’s Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD
- 日本全国乾杯ラップ feat. 奇妙礼太郎
- Uptown Anthem feat. 碧棺左馬刻(from『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』)
- YOKOHAMA SKYWALKER feat. SAMI-T from Mighty Crown、AISHA
- メリゴ feat. SKY-HI (grooveman Spot Remix)
■サイプレス上野とロベルト吉野 Official Site
Official Site http://sauetoroyoshi.com/
Twitter(Official) https://twitter.com/saue_to_royoshi
【20周年特設サイト】https://sauetoroyoshi-20.com/