Interview

21.11.02

イヤホンズConcept EP「identity」発売記念「手話あいらんど」インタビュー(後編)

9月22日に発売したイヤホンズConcept EP「identity」

目と耳で楽しめる作品として世に出された今作では、収録されている楽曲「はじめまして」のMVで手話が取り入れられた。声優として今まであまり接点の多くなかった“耳が不自由な方”に対してもイヤホンズの音楽を楽しんで頂き、“はじめまして”という体験ができたらという想いが籠められている。手話の監修、および振り付けを担当したのは、手話をエンターテイメントとして取り組み、ろう者と聴者が共に作品を作り続けている「手話あいらんど」。今回は手話あいらんどから「はじめまして」に携わった南瑠霞・いくみの両名へのインタビューを通して、楽曲と手話の世界を伝えたい。

(前編はコチラ)
URL:https://evilamag.com/special/post/3582/

――MV内のそれぞれのフレーズについて、どのような意図で手話指導されたのかを、かいつまんで教えていただけますか?

南:
長久さんの歌詞「伝わらないって?」の「伝わらない」という手話は、人差し指の先がすれ違うといった表現になっています。ETの映画で人差し指の先をくっつけ合う表現がありますが、これがちょうど日本の手話では「通じる」「伝わる」「つながる」といった意味。その逆で、指がずれるので「伝わらない」という意味になります。この歌では、伝わらないのが「私」と「あなた」になりますので、一方の人差し指は自分からもう一方の人差し指は相手の方から近づいて、それがずれる!と表現します。手話の出発点が「私」と「あなた」の位置を示しているわけです。長久さんの表現は分かりやすいですね。

また、「全然違うし」の歌詞の「違う」という手話も、位置や方向が重要になってきます。左右の人が違うと示すのと、「あなた」と「私」が違うのでは、両手を出す位置が違います。これも、映像を見ていただくと、両手の親指と人差し指を立てて、互いにひねる動きが、「あなた」と「私」の位置に当てられています。高野さんが一生懸命練習してくれました。

なお、歌詞の1番と、2番以降の「手を叩いて」「足踏みして」は、音楽のリズムに合わせているので、同じ歌詞でも動きが違います。ここでは、音楽のリズムの違いを、体の動かし方を変えて表現しています。高橋さんが、すごく楽しくやってくれたのが印象的でした。

あとは、大きな意訳になっている箇所ですが、長久さんが担当している「いいか」という歌詞は、「良い、悪い」の「いい」という意味ではありません。「あなたに何と伝えていいのか“迷う”」という意味合いを大事にして、「迷う」という手話を表現してもらっています。

「どうかなりそう」は、その言葉通りの手話が単語として存在するわけではないので、「頭を抱える」というしぐさと、「頭が混乱してぐじゃぐじゃになる」という表現を、積み重ねています。ここは「苦しい」や「悩む」といった言葉も候補にあがりましたが、歌に合わせた振り付けとしての見え方も考えて今回の表現が選ばれています。

 

――「ご飯のお味」などでの動きも手話という位置づけになるのでしょうか?

 

南:
はい、お茶碗と箸を持って口に運ぶ動きは「ごはん」または「食べる」という意味の手話です。ただ、「ごはんのお味」という歌詞は、「ごはん」と「味」の二つの単語を表現するには、時間が足りないので、「ごはん」という一つの単語で、意味を伝えています。

そのあとの「見てる景色」の歌詞の部分も、「(景色を)眺める」というひとつの手話で表しています。

ちなみに「気候や踊り」も、違う意味の言葉が並んでいますので、3人に表現を分けてもらい、真ん中の高橋さんが「踊り」、左の高野さんが「暑い」、右の長久さんが「寒い」と表現してくれています。一つの画面で、同時に3つの手話を表現することで、意味合いを伝えています。

「体の調子」の歌詞も、元気だったりそうでなかったり、いろんな「体の調子」があると思います。そういうことがこの歌で伝えたい意味だと考え、ここは、真ん中の長久さんが「元気」、左の高橋さんが「熱(がある)」、そして右の高野さんが「せき(風邪)」という手話を、同時に表現してくれています。

――ほかにも意訳しているところはありますか?

いくみ:
「だけに難しい」という歌詞ですが、手話単語としての「だけ」という表現はありますが、それは「いっぱいあるなかでポツンとひとつ=だけ」という意味なんです。そのまま当てはめて歌詞に置き換えると「一個だけ難しい」という意味になってしまいます。ですからその部分の手話は「だから・難しい」と翻訳されています。

あとは「しらないもの」の「もの」を直接訳そうとすると「品物」「もの」など、どちらかというと物体を示す表現になりがちです。でもこの場合、どちらかというと、「出来事」や「国」や「人」も含めての『もの』だと考えましたので、曲中では、もの(目の前の出来事)を「指差す」表現で伝えています。

それと「ぎこちなくても」という歌詞の部分は、「ヘタでも構わないよ」という表現にしています。

南:
最後の「どれだけの人と会えるかな?」も、あちこちでの出会いを意味するため「会う」という手話を二度表現し、「(それが)たくさん」と、伝えています。

――振り付けは、いくみさんとの共同作業ということですか?

南:
はい、私がベースを作ったあとに、いくみが色々と案を出してくれて、手直しして完成しました。共作です。また、現場にいくみが入ってくれたことで、イヤホンズの3人も手話の空間にスッとなじむことができたと思います。聞こえない人に直接出会って、同じ空間を共有することは大事だなと思います。

――ほかに印象的だったことはありますでしょうか?

いくみ:
私は、3人が手話を使って積極的にコミュニケーションを取ってくださったことが印象に残っています。最初は南さんに通訳をしてもらってコミュニケーションをしていたのですが、後半ではメンバーが私のところに直接相談にきてくれて、通訳を挟まずにコミュニケーションを取ることができるようになり、すごくよかったです。

――完成したMVをご覧になった感想をお願いします。

いくみ:
3人の世界観がすごく出ていて、打楽器の映像があり、音楽のテンポも伝わってくるような感じが素晴らしかったです。目と耳で楽しめる作品になっています。私には音楽は聴こえないけれどキラキラした感じや、手話を通して歌詞の意味などが伝わってきて、すごくよかったです!

私の親しい友人(耳が聞こえる)がアニメが大好きで、イヤホンズのメンバーのことを話すと、よく知ってました。今までその人とそういうことを話したことがなかったので、新しい会話が生まれました。

また、高野さんのTwitterで、私がいつも見ているTV番組のナレーターをされていることに気づきました。ナレーションの文字自体はテロップで出るので知っていましたが、どなたがしゃべっているかまでは聞こえないからわからなくて。それが高野さんであったことに、驚きました。

「はじめまして」という作品でいつも拝見していた高野さんに「はじめまして」できたのです。笑 とても嬉しい体験でした。

もともと、今まで様々な映像にナレーションがあることも、顔が見えていないので気づきにくく、見えてない部分に人がいる!!ということに、今回の出会いで、改めて気づきました。

 

南:
目と耳で楽しみ、今まで会うことのなかった方にも「はじめまして」と伝えたいというコンセプトを実現したのがイヤホンズの3人なんだな、と思っていて。伝えたいという想いが強くなればなるほど、手話の取り入れ方も生き生きしてくるし、制作スタッフのみなさんもそれを実現させるために生き生き動いてくれる……という好循環が素晴らしいと思いました。手話をハートでやってくれているのが伝わってきます。とても素敵な作品に仕上がったと思いますのでぜひ観てもらえると嬉しいです。

■手話あいらんど
手話をエンターテイメントして、人々の心に夢を届ける総合カンパニー。手話パフォーマンスきいろぐみのプロデュースに取り組むほか、映画等の映像やアーティスト作品への手話指導、手話辞典の編纂、手話教室の展開などを行っている。
https://www.shuwa-island.jp 

■手話パフォーマンスきいろぐみ
手話あいらんど所属チーム。手話のパフォーマンス活動で、手話ライブなどを全国展開。
「手話ミュージカル」「手話による朗読劇」など作品多数。
※南 瑠霞ときいろぐみの活動経歴はこちら
https://minamiruruka.seesaa.net/article/481590629.html

★南 瑠霞(みなみ・るるか)

手話パフォーマンスきいろぐみ代表。厚生労働大臣公認 手話通訳士。
手話パフォーマー。手話コーディネーター。
(株)手話あいらんど 代表

 

 

★いくみ

手話パフォーマンスきいろぐみ デフキャスト(耳の聞こえない役者)。
これまで、手話パフォーマー・ろう者女優として、出演作品多数。
各地で、手話による司会などでも、活躍中。
このほか、アーティスト手話作品指導など。