Interview

23.06.27

【インタビュー】必然のタイトルとメロディ、最新曲「最低なともだち」誕生秘話

5月11日に配信シングル「最低なともだち」をリリースしたドレスコーズ・志磨遼平。楽曲制作やライブとの向き合い方の変化、俳優として演じることなど様々なことに触れながら、最新曲「最低なともだち」を深掘りしたインタビューの模様をお届けしよう。(文:南 喜一)

コロナ禍で変化した活動のサイクル

── 早速ですが、この春はフェスやライブでの“声出し”が解禁されました。志磨さんも春フェスに出演したり、ツーマンライブを行ったりしましたが、ここ数年で「ライブ」への向き合い方や考え方など、何か変化はありましたか?

(しばらく考え込んでから)やっぱり、あらためて考え直したことはいっぱいあったと思いますね。いつ頃からか分からないですけど、自分の活動のサイクルみたいなものがなんとなく決まってきまして。まずアルバムを作る、アルバムが完成したらそのアルバムに基づいたツアーを行う、そのツアーが終わったらまた次の制作が始まる、というサイクルがあって。つまり(ライブは)ひとつの大きい制作の“着地”というか“実演”みたいな場として考えていたんですね。頭の中だけに存在していたものを実際にやってみるという。そのテーマが1年ごと、1作ごとに変わる、という感じですかね。

で、そのサイクルみたいなものを、去年からちょっと意図的に崩しているんです。出来た曲はどんどんライブで演奏していって、それをシングルとしてすぐにリリースする。大きい作品としてまとめるよりも、小さい作品をこまめに出す、というような。そういうサイクルの変化が去年ぐらいからあって、そこにちょうど、お客さんが声を発してストレスなくライブを楽しめるという状況がまた戻りつつあるので、今はステージに立つたびに「おお……」と新鮮なよろこびを感じているところです。

── サイクルを変えたというのは、コロナもきっかけになっていますか?

それは明らかにありますね。こういう言い方で合っているかは分からないですけど、いいきっかけとして捉えていました。

── 5月10日には、小西康陽さんとのツーマンライブもありましたが、これはどんなきっかけで実現したのですか?

実はほぼ初対面だったんです。僕は中学生の頃から小西さんの作品のファンで。ピチカート・ファイヴの活動はもちろん、小西さんがお書きになる文章やインタビューでの発言、そこから知れる物事の捉え方とか、小西さんがお持ちの膨大な知識といったところにもずっと憧れていました。いつかお会い出来たらいいなと思いながら、僕と小西さんの間に共通の重要なキーパーソンとして、信藤三雄さんというアートディレクターの方がいまして……今年お亡くなりになったんですけど。その信藤さんが「小西さんと志磨くんを会わせたいんだよね。すごく似ているんだよ、たぶん気が合うよ」ってよくおっしゃってたんですけど、結局お会いしたことがないままで、信藤さんのお別れ会で初めて、やっとご挨拶が出来たんです。

憧れの小西康陽とのツーマンライブで新曲「最低なともだち」を初披露

── そして、実現したツーマンライブで、新曲「最低なともだち」をサプライズ初披露されたと。サプライズで披露したのは何か意図というか、考えがあったのですか?

去年から、僕が好きなゲストをお招きするツーマンライブを定期的に開催しているんですけど、そこでその時その時の一番新しく出来た曲を披露して、その日のうちに配信リリースするというのを毎回やっていまして。小西さんとの初めての共演の日に「最低なともだち」を初披露したのは、それが一番新しく出来た曲だったから、ですね。

── 反応はいかがでしたか?

いつも新曲をやる時はそうですが、みんなじっくりと耳を傾けてくれていたように思います。終わると、わーっと拍手をくれます。


── 今回の「最低なともだち」というタイトルは、ちょっとドキッとするタイトルですし、想像が膨らむタイトルだなと感じました。タイトルはどのタイミングで決まったのですか?

僕は、だいたいいつも曲が先に出来上がりまして、そこに後から歌詞をつけていくことがほとんどです。なので、曲を作っている最中は、ラララとかフフフと歌いながら作るんですけど、たまに歌詞がついた状態で出てくることもありまして、今回もそのラッキーなパターンでした。「最低なともだちで いいから ずっと ずっと」というフレーズが口をついて出てきて、それを他人事のように「ふーん、最低なともだちでいいんだ」とか言いながらメモして。それで「最低なともだち(仮)」という仮タイトルをつけて、後は、だから穴埋め問題ですよね。なんで最低なともだちでいいのか、その理由を答えなさい、という問題を解いていくという。なので、この「最低なともだち」っていうタイトルは最初からありました。

── とても興味深いお話ですが、それは、あるパターンなのですか?

ごくたまに、ですね。そういう時はもうなるべくその部分を変えないように、何かのおぼしめしだと思って、信じて書き続けます。

曲作りの最中、頭に浮かんだのは、ある人気脚本家のドラマだった

── あと、「最低なともだち」というドラマか短編映画があって、その主題歌なんじゃないかなというような印象も受けました。物語自体は、最初から志磨さんの頭の中にあったのですか?

ちゃんと脚本のようになっているわけではなくて、大まかな結末、バッドエンドであるとかハッピーエンドであるとか、それくらいですかね。あとは登場人物の設定ぐらいです。登場人物の性別とか、年齢は何歳ぐらいとか。それくらいの設定はある気がしますね。

── 何か過去の作品でモチーフにしていたり、イメージしたりした作品はあったのですか?

今回、ぼんやり作っている時になぜか思い出したのは、僕が中学校の頃にテレビでやっていた野島伸司さんのドラマシリーズですね。毎回すごくシリアスで、いじめであるとか家庭環境であるとか、そういった理不尽な障害に主人公たちが手を取り合ってもがきながら立ち向かうというような。“理解のない大人たち”と“無垢な子供たち”の対立構造を描かせたら右に出るものなし、という脚本家さんですね。あと、野島さんのドラマは音楽も毎回よかった。ひと昔前の洋楽のポップスとか、日本のポップスから本当に絶妙な曲が主題歌や劇中歌に選ばれていて。野島作品は僕の人格形成にすごく影響している気がします。その影響が今回の曲にはありありと、色濃く出ていますね。あのムードをひとりで再現してみたというようなところはあります。

── それは、曲を作り始めた初期からあったものですか?作っているうちに、そういうイメージに引っ張られていったような感じなのですか?

どっちが先だったかはちょっと曖昧なんですけど、ひとつきっかけとなったのは、ちょうどこの曲を作り始めた頃に、僕が何回もご一緒させていただいている映画監督の山戸結希さんに久しぶりにお会いして。コロナ前の映画の撮影以来だったので、しばらくの間どうしてましたか、というようなことをお聞きしたら「やっと落ち着いて制作に取り組めるようになったので、まず何を撮りたいかと考えたら、志磨さんの音楽に踏み込んで作品を撮ってみたいと思ったんです」ということをおっしゃってくださったんですね。それで「ちょうど今、曲を作っているので、さっそく撮っていただけませんか」とお答えして。なので、この曲には最初から映像が加えられる前提があったんです。だからこそ、余計に映像的な曲になっているという気がしています。

── 普段から、曲を作られている時に、映像もイメージされているのですか?

僕の曲は、自分語りの曲か、ストーリーテラーとして架空の物語を語っている曲かの大きく2つに別れるんですけど、自分語りの曲を作る場合、視覚的なイメージが浮かんでいるとしたら、それはライブで自分が歌っている時にステージから見える光景なんですよね。客席にどんなお客さんがいて、どんな気持ちでこの歌を聴くだろうかとか。逆に、架空の物語を作っている場合には、架空の主人公がいる情景やシチュエーション……例えば、雨が降っているだとか、誰かが泣いているだとか、そういうのが浮かんでいる、といったそのどちらかですね。

── 今回のMUSIC VIDEOの制作に関しては、山戸監督にすべてお任せだったのでしょうか?

はい。もう全部委ねました。「前にお約束していた曲が出来ましたので送ります、是非お好きに撮ってください。僕が出る必要があればもちろん出ますし、まったく僕が出なくてもいいです」という感じで。

── 完成した作品を実際にご覧になっていかがでしたか?

それはもう流石でした。今回だけでなく、山戸さんの撮影に加わる時にはいつも思うことですけど、カメラを向けられる側の人達に対しての切実さというのか、実直さというのか、一切の容赦なく、山戸さんが撮るべきものをずっと探して、見つかるまでは何回でもリテイクするという……その姿を見ていると、「こうあるべきだよな」と思うんです。自分も似たところがあるということですよね。すごいなあ、といつも痺れますけど、今回も素晴らしい現場でした。

志磨遼平の琴線に触れる作品とは。そして、俳優・志磨遼平について

── 先ほど、野島伸司さんの話題が出ましたが、音楽のみならず、漫画や映画、ドラマなど影響を受けた作品は沢山あると思います。そうした昔の作品は、今でも観たり聴いたりするのですか?

そうですね。古いものが大好きなので。古いものはとにかく世界中に膨大な量がありますからね、ちょっと矛盾した言い方ですけど、新しい“古いもの”を常に探しています。新しい“新しい”ものを探すことももちろん楽しいですし、まだ自分の知らないものの中から自分が気に入るものを探すという行為は、もう昔からずっと好きですね。

── ちなみに、志磨さんの琴線に触れる作品と言いますか、惹かれる作品の傾向はありますか?

やっぱり、破天荒なものですかね。もう、この歳まで変なものばかり探していると、なんか、ある程度のものに免疫がついてくるというか。例えば工事現場の音をずっと聴けって言われても楽しんで聴けるくらいに、変な音楽をいっぱい聴いてきたので。そういった特殊な耐性が付いてしまっても、それでももっとビックリしたいというか。「こんなことについて歌っている曲は聴いたことがない」とか、「こんな表現は読んだことがない」とか、「こんなシーンやこんなカットは観たことがない」っていう映画とか、そういうのを結局観たいので。そういう作品であれば何でもいいです。そういうものに惹かれるし、そういうものを自分でも作りたいと思います。

── 志磨さんご自身もNetflixの作品「今際の国のアリス」などにも出演されていますが、新しい作品にどのように触れているのか?も気になります。

面白そうだな、と思ったものにはホイホイと飛びつきます。新しいとか古いとかは関係なく、今まで観たことがなさそうな作品であればなんでも。

── ちょうどNetflixの話も出たので、俳優業についても是非聞かせてください。俳優のお仕事の時の気持ちの切り替えなど、何か意識していることはありますか?

意識するなんて……。もうただ「お役に立てますように」ということだけです。作品の中の一つの部品としてどういう風に立ち振る舞えばいいかなと、本当にそれだけを考えて。部品としての僕が不良品でなければいいんですけど……とひたすら願って、なるべくその性能を磨けるなら磨きたいと思いながら、一生懸命頑張っております。

曲作りの考え方が変化した意外な理由

── ちょっと質問の方向性を変えますね。曲作りでの壁や苦悩と言いますか、そんな時、志磨さんがどのように乗り越えてきたのか……そんなお話も是非聞いてみたいです。

曲作りでは不思議とあまり苦労はしないんですよね。でも、歌詞に関しては、どんどんハードルが上がり続けますよね、自分の。その分、どんどんよくもなっている。そしてその分だけどんどん時間もかかるようになった、という感じでしょうか。1日中、ゴロゴロゴロゴロ転がりながら歌詞を書いています。前はもうちょっとポンポン書いていて、いい出来もあれば悪い出来もあったんですけど、やっぱりこう、だんだん不出来なものが許せなくなってきて……。だから転がってますね、ずっと。自分の中のハードルが上がるというのは、経験だったり年齢だったりを重ねたからというのもあるでしょうし、何て言うんでしょうかね、今までよりも使える言葉が増えて、その中から吟味しているみたいなことなんですかね。書くべきものに対して最も適した言葉を探すというか……。ありきたりな言葉はすぐに見つかるんですけど、これじゃない感じがするっていう。以前は、ありきたりな言葉でも全然満足していたんですよね。でも、もうちょっと吟味すればまだまだ違う言葉があるなという気がして。

── 歌詞のハードルが上がったのは、経験や年齢を重ねたということ以外にも、何かきっかけはありますか?

もしかしたら、人に曲を提供するようになったからかもしれないです。例えば、今までのように自分で作って自分で歌う分には、僕が正解だと言えばそれが正解なんですよね。ここはこれでいいんだ、と僕が思えればおしまいだったんですけど、やっぱり提供曲にはちゃんと正解があるんですよ。だから、ダメ出しが返ってくるんです。もうちょっとここを直してくださいとか。で、書き直しするようになって、そしたら「書き直すと本当によくなるんだ……」という気付きたくなかったことに気付いてしまい。で、自分でもダメ出しをして自分で書き直しするようになっちゃいましたね。時間をかけるとやっぱりよくなるなあ、困るなあ、という……。

気になるドレスコーズの今後について

── 演技をされたり、小説も書かれたり、他のアーティストに楽曲提供をされたり、そんな色んな活動を経て、志磨さんが今、興味を持っていること、これから挑戦したいことは何でしょうか?

やっぱり「まだやったことないこと」になりますかね。やったことがあること、人生で唯一続けていることがドレスコーズというか、バンドなので、ずっとそのことだけを考えて生きてきて、ようやくやっと自分なりのものを何とか表現することができるようにはなりました。でも、それ以外にできることは何もないので、死ぬまでに少しでもできるようになりたい、というような気持ちです。ダメなところを直したい、という気持ちに近いかもしれません。遅刻しないとか、猫背を直したいとか、そういう気持ちで、バンド以外のこともできるようになりたい、と思っています。

── ここまで色々なお話を聞かせていただいたので、最後に、それらも踏まえた上で、ドレスコーズの今後について教えてください。

今はずっとスタジオに籠って曲を録音して、帰ってきてまたゴロゴロ転がりながら歌詞を書いて……という毎日です。でも、もうそろそろ仕上げに取り掛かりますから、次に出る曲もどうか楽しみにしていてください。


新曲「最低なともだち」の話を中心とした約1時間のこのインタビューは、6月上旬に行なわれた。映画監督 山戸結希が手掛けたMUSIC VIDEOも絶賛公開中なので、今回のインタビューで語られた内容も踏まえて是非観ていただきたい。

(ドレスコーズ プロフィール)
2003年「毛皮のマリーズ」結成。日本のロックンロール・ムーブメントを牽引し、2011年、日本武道館公演をもって解散。翌2012年「ドレスコーズ」結成。2014年以降は、ライヴやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わる流動的なバンドとして活動中。「最低なともだち」・映画『零落』主題歌「ドレミ」が好評配信中のほか、8thアルバム『戀愛大全』(2022年)、LIVE Blu-ray & DVD『ドレスコーズの味園ユニバース』(2023年)が発売中。菅田将暉やももいろクローバーZ、上坂すみれ、PUFFY、KOHHといった幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも行なっている。音楽監督として『三文オペラ』(2018年 ブレヒト原作・KAATほか)『海王星』(2021年 寺山修司原作・PARCO劇場ほか)などに参加。俳優として映画『溺れるナイフ』Netflixドラマ『今際の国のアリスSeason2』などに出演。映画『零落』(2023年 浅野いにお原作・竹中直人監督)では初のサウンドトラックを担当。現在は東京新聞にてコラムも連載中。

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Release
■ドレスコーズ「最低なともだち」
好評配信中
配信リンク一覧:https://dress.lnk.to/saitei

ジャケットイラスト:不吉霊二 作

■ドレスコーズ「最低なともだち」MUSIC VIDEO


Total Information
■ドレスコーズ Official Web Site
https://dresscodes.jp
■ドレスコーズ(志磨遼平) Twitter
https://twitter.com/thedresscodes?lang=ja
■ドレスコーズ公式 Twitter
https://twitter.com/thedressstaff

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